社会人にとって一番の悩み事は、練習時間の確保が難しいところだと思います。
乗っていれば速くなるという時期を過ぎて、さらにもう一段階速くなろうと思うと計画的な練習メニューが必要になってきますが、社会人にとって安定した練習時間の確保がもっとも難しいのは共通の認識ですね。私も現在3時間以上連続した練習ができない状況にあります。年間を通して5時間以上連続した練習ができる日は数えるほどしかありません。
こういった時に念頭に置くようにしている考えが、週に1回キツい練習をするよりも緩い練習を7回やった方が強くなれる、という事です。一度に5時間も6時間も乗る必要はない。週に1回5時間練習よりも1時間の練習を5時間行った方強くなれる。5時間以上のレースが滅多にないのに5時間練習する意味は希薄なんです。
【長距離練への危惧】
例えば丸一日走れる練習時間があったとして、そのあいだ自分を追い込めている時間は何時間でしょうか。私の練習時間は毎回3時間程度ですが、そこから移動時間を差し引いて本メニューをこなしている時間はわずか1時間程度です。なぜ1時間をターゲットにしているかと言えば、レース中に重要になる局面が1時間以上続く事は滅多にないからです。また人間の集中力には限界があり、集中力のない状態での練習はまず実力に変換されません。
距離を走るとなんだか練習した気になって、安心してしまったりするかもしれませんが、もし長い時間走ったとして、どれほど効果があるのでしょうか。実は200㎞走っても50㎞しか走らなくても、自分を追い込んでいる時間が変わらなければ、レベルアップの回数は変わらないのではないでしょうか。むしろ練習になってないのに練習した気になってしまう方がよほどマズいと考えています。
【ではいったいどこまで一緒?】
少し乱暴ですが、今の考え方を極論で言うならば、どんなに短い時間でもいいから、とにかく毎日乗る事だと言えます。どんなに忙しい人でも、5分も時間が無いなんてことはないはずです。
ロードバイクを乗る上で何よりも怖いのは、ペダルを漕ぐときの感覚が薄れてしまう事です。ママチャリの乗り方は覚えたら忘れないものですが、ロードバイクの乗り方はけっこう忘れてしまう物です。しばらく乗ってないけど乗ればちゃんと昔の感覚のまま乗れるよ、と言うのは、時速47km/hで巡航する事よりも3分インターバルを20本行う事よりも、はるかにレベルの高いことだと思います。
自分が乗れていない期間に仲間内の誰か一人からでも乗ったという報告があると、どうしても自分以外は乗っていると思い込み、周りが乗っている中で自分独りだけが乗れていないと思い込んでしまいがちです。焦って乗っても久しぶりに乗るロードバイクの感覚が思い出せない。このスパイラルから抜け出せず、結果的にやめてしまったり。
それを防ぐには、とりあえず乗る事。レーパンなんて履かなくていい。風呂あがりの素っ裸でもなんでもいいから、とにかくペダルを1回転でも回しておくことです。スポーツのコツは絶対に脳と体を切り離さない事です。
乗れない期間は誰にでもありますし、その期間に体力が落ちてしまうのは避けられません。その時に重要なのは脳まで鈍らせてしまわない事です。逆に言えば脳さえ鈍っていなければ何とかなります。私が保証します!
【1年間ありがとうございました】
さて、私は先の店長選手権にて負けました。私の「最速店長日記」も今月号で終わり、みなさんともお別れです。
全国誌で連載を持つというのは人生において初めてのことでしたし、やるからにはいいものにしようと張り切っていたのですが、やってみるとなかなか大変なものでした。
「最速店長日記」ではなるべく感覚で物を書かないで、ちゃんと数字と理論で書きたかったし、しっかり起承転結を組み立てて書こうと思っていました。オーソドックスに序論本論結論と書くのか、文字数を増やしてでも結論を2回書いた方が良いのか。そういうことを悩みながら、しかし文字数制限のせいで、序論からいきなり結論になってしまって、なぜその結論が導き出されたのか、わけわかんなくなっちゃったりしました。改めて自分の文章力の無さを感じます。
そしてこれはさらに先の話になるのですが、私は自転車の教科書なるものを作りたいと考えています。その構想は1年以上前から頭にあって、「最速店長日記」もその全体像から一部分ずつ抜き取っていくような形で構成されていました。
ロードバイクにおいてはある程度の理論は構築されつつありますが、それを明文化している書物はあまりありません。それは乗る人、組み立てる人、教える人、文章にして伝える人が、全てバラバラだからに他なりません。でももしそれを1人でまとめられる人がいたら.……。
感覚でしか書かれてこなかった自転車の記事を、はっきりとした数字と理論でまとめて、基本のマニュアルから応用への道筋までをまとめた、教科書作りをやってみたいんです。もっともっと文章を上手に書けるようになって、もっと速くなって最速店長に戻り、いつの日かまた皆さんの前に帰ってきたいと思います。その時まで、また。
- 商品名
- 【BN】第36回最速店長日記:最終回。いったん終わり。また今度、
- 登録日時
- 2015/01/10(土) 15:48
- メーカー名
- サイクルスポーツ連載記事『最速店長日記』バックナンバー