ルックの特徴としては、最近流行りの、ダウンチューブやシートチューブを固くして、ステーやダウンチューブをやわらかくし、各パイプごとに役割を分担させ……ていないところ。10本のバランスが良く、動力性能の面でも、快適さの面でも、フレーム全体で仕事をさせているところです。
それでも595以降のルックは586や695はダウンチューブが少し柔らかくなっていて、セットバックを大きく取り、ダウンチューブに負荷をかけて自転車全体をハイパワーで押してやることが必要です。体重の軽い人は苦労すると思いますが、ここさえできていれば、ルックのバネは他の自転車よりもとても強く、高速でよく伸びてくれます。
その他に他フレームとの大きな違いは、専用パーツが多い事。ステム、ピラー、それからチェーンホイールとチェーンリングとBBのクランクセット。
まずはステムから話します。結論から言うと、変えない方がいいです。一応、FSAのOS-99とOS99-CSI、それからデダのゼロ100の3つと、普段自分で使わない3Tのアークス・チームも買って試してみたのですが、結果的にはステムはデフォルトが最も良いという結論になりました。
ステムに求められる性能は大きく3つ。剛性、軽さ、そして安定性。剛性は純正品を含めて5つすべてが及第点。どれがいいとか、どれが悪いとかは無い。カーボンステムだからと言って、変にしなったりするものでもなく、もともと太いうえに厚いから、おもいっきりパワーかけて無理やりバイクを振ったところで、ハンドルがしなってもステムはびくともしない。コラムチューブも。
695のCステムは、バラしてみると9個のパーツになります。単純な重さは非常に重いのですが、すべてコラムチューブ側に集まっているため、先端は非常に軽いものです。持っただけの軽さなんて意味がなく、使った感覚は“軽量アルミステム群”よりさらに軽い。
そして最後の安定性が最たる特徴であり、変えない方が良いと思う最大の理由。純正ステムを使うと荒れた道で60km/h出してもビタッと走ります。上記5つの中でもっとも安定し、まるでサスペンションが付いたかのように自転車が暴れません。ステムとフレームの相性は非常に大事なのだけれど、このステムこそが、ルックの目指したトータルインテグレーションの化身だと思います。
ちなみにステムの話とは関係ないけれど、屈折したトップチューブも安定性に一役買っていると思います。個人的な感覚だけを書くと、屈折したトップチューブの感覚はフォーク角のあるフレームに乗っている印象とかぶります。フォークを立てて機敏さが欲しいけど、寝かせて直進安定性も出したい。ルックの開発陣が両立させるために考えたらああなったのだと思います。最近のルックのラインナップで566、586、695とみな屈折しているけれど、実は最たる例がTTバイクの596。アレの安定の仕方は半端じゃない。ものすごい前傾姿勢でもビタッと走る。596と他のTTバイクを比べたことで、この屈折したシートチューブの意図と効果に確信がもてた気がしました。
剛性、軽さ、フレームとの相性、3つの面全てからみて、このステムを選んだ方がいいと思います。それに正直見た目を考えると、純正のステム以外はすごくみっともないんですよね。コイツの最大のネックは価格。1つ4万円もする。だから、2011年、695初年度の前後1㎝の変更が可能…というのを辞めたのはデチューンだったと思います。理論的に言えばワンピースの方が剛性も軽さもよいのでしょうけど、FSAのOS-99やデダのゼロ100を使っている僕が可変式のコレでも全く不満がないのですから、長さが変更できるだけアドバンテージでしょ?と考えています。100を101にするためにヒルクライム用にプラス4万円出しますか?と思う。固定式になったところで僕が速く走れますか?と思う。僕はプライベートで695も695SRも買いましたが、2012年のモデルを頼んだ時には、無理言って2011年度のバージョンでお願いをしました。フリーダムのお客さんの分も、そうオーダーしています。
次はピラーです。Cステムの次はEポスト。CだかEだかよくわかんなくなりますが、やろうと思ったら2011年の586RSPの補修パーツを使うこともできますね。これはやらない方がいい。なぜ上位グレードにEポストを使って、廉価グレードをRSPにしたのか。ルックに乗りたいのだからルックの世界にハマるべき。Eポストあっての595で、586で、596で、695だと思います。
ちなみにR32という無段階調節で横止めする別バージョンがあります。TTバイクの596にデフォルトで付属してくるもですが、補修パーツとして購入することができます。ただし、カーボンレールが使えないというデメリットもあり、軽量化にもなりません。通常のEポストでも固定はしっかりできるので、それを理由にすると、積極的に購入する必要はないと思います。
通常のシートピラーでもかなりセットバックが0㎜~35mmと今あるシートピラーでは最大級に取れるのですが、R32はさらに15㎜とることができます。セットバックを大量に欲しい人がカーボンレールでは不安なときは役に立つかも知れません。また、無段階調節でもあるので、セライタリアのSLRなど、微細な調節を求められるサドルを使っている人にはよいと思います。
最後はチェーンホイールとチェーンリングとBB。クランクセットはまずチェーンリングの話から。基本的にシマノではフロント変速機の引き白が適合しません。僕は電動を使っていてもメカニカルを使っていてもチェーンウォッチャーを付けています。カンパで作る場合は変速性能もカンパ純正のチェーンリングとさほど変わらないです。変速性能が落ちる…と言われていてもカンパとはさほど変わらないし、カンパとシマノのフロントの変速性能を比べること自体がナンセンスです。それに電動のいいところは“変速性能”じゃない。
チェーンリング自体の強度はシマノやカンパに比べると、確かに固くないかもしれないけど、なにより実際の走行速度が他の自転車と変わらないので気にしていません。
チェーンホイールは非常によくできています。左クランク~スピンドル~右クランクを一体で作れば軽くなるし剛性が上がるのではないか…ルックはこのワンピースクランクの構想が先にあったのだと思います。その後、このクランクに合わせてBBを作り上げた。そうじゃないとこの形にならないはずです。
軽さはデュラの半分。固さも申し分なし。どうせ人間がかけられる負荷なんて2000wが良いところだし、ただただ剛性を求めていっても効果は薄くなっていく。あるいは逓減する。ツールレベルの選手が勝負所で出す出力が600wと仮定して、そこに耐える剛性を確保したら、スプリンター以外は軽量化に回るのが正しいと思います。TTバイクの596が発端であることを考えれば、コイツは中~長距離巡航を的に絞ったクランクです。実際に695も中~長距離巡航が得意なバイクです。僕も突発的なパワーは全然無くって、淡々と中負荷をかけ続けるのが得意なので695は選ぶべきバイク。スプリンターはS-WORKSにでも乗っていればいい。
BBについてなのですが、これはセラミックスピード社の話と交えて話します。専用クランクであるZED2クランクは、出力をかけた時には、他のどの自転車よりも軽く回るのですが、小さい力で小突いた程度では反応しません。シマノの純正ベアリングもそうですね。300w以上くらいでパワーをかけている時はいいけれど、休んでいるときはただ重たいだけ。セラミック化はそこを上手く補ってくれます。
実は695のZED2クランクは、各小売店の店長クラスを中心に、工業用のベアリングへの打ち替えが極秘にされてきました。グリスを軽くしたりオイルと混ぜたり、内側のシールドを外したりすると頻繁にメンテが必要になってしまうめ顧客に対しては推奨できませんでした。逆に言えば、シールドを取って軽いグリスを少量で押さえておくことで695の唯一の弱点ともいえる低出力時の抵抗が補えたわけです。
ここでのポイントは、2012年度からメカニカルと電動が共有になりBBシェル内部にDi2ケーブルが通るための穴が開くようになったこと。これで、内側のシールドを取るという事がほぼできなくなりました。これは2011に対してディスアドバンテージです。
※アドバンテージはリアブレーキが軽くなること。フルアウターではなくなりました。
保証の面でも、自転車用に作られたベアリングより工業用を優先する手はないです。ましてこのZED2クランク専用のベアリングは、695と596のためだけに作られたのだから。
なぜ僕がここでセラミックスピードの話を持ち出したかというと、あれはベアリングの精度もさながら、レースとシールドの精度が非常に高いんです。ベアリングというと玉の真球度ばかりが注目されますが、どちらかというと大事なのは受けの方です。ベアリングの玉は回転中には実はそれほど回るものではないのですが、そのレースの精度出しに失敗しているのがエン■ューロというメーカー。最高級G3グレード!とかいいつつ、全然回らないのは、レースの精度が悪いからなんです。半額のTNIの方がマシです。
ベアリングの玉、レースの雄雌、シールド、そしてグリス。この4つを総合的に作りきれていると感じるのは、今のところセラミックスピードのみ。驚くべきことに、シールドを付けているときと付けていない時で、抵抗に差がほとんどありません。この特徴はプレスフィット系のフレームには非常に有利に働きます。
BB29400円~、ハブベアリングキット45600円~、プーリー2個15800円~と、非常に高価なメーカーで、1台まるまるセラミックスピードで固めると、それだけで10万近くかかるのですがベアリングは自転車の肝中の肝。ベアリングをケチるのは、タイヤをケチるのと一緒です。まして695の最大の弱点が改善できるわけですから、全国の695オーナーには是非試して欲しい。
話がそれましたが、以上695をまとめると、ステムはそのまま、Eポストもそのまま、クランクセットもそのままとなり、非常にイジり甲斐のないバイクです。フレームに、ステムやピラー、クランクなど、相性を求められるのを自分で作ってしまおう、的な考えは非常に合理的。
全体のバランスが非常によく、規格も独自で最新鋭。冒頭で、10本のチューブが全体にまとまっていて、と書きましたが、それにステムとピラーとクランク2つと、コラムチューブとクランクスピンドル、計16本を統合してのトータル的な完成度が非常に高いことが特徴。逆に自転車全体をしっかり機能させてやらないと、コレに乗っている意味がないとも言えます。無個性と言えば無個性で、はじけるパッションであふれるわけでもない。息を合わせるのが非常に難しいバイクです。
~元愛車~
- 商品名
- ルック・695(ノーマル)
- 登録日時
- 2012/02/19(日) 17:47
- メーカー名
- フレーム