店長日記も5回が終え、これまで自転車のパーツの説明を中心に書いてきました。
機材を揃えたら、すぐにでもイベントに行きたいところですが、もうちょっとだけガマンして、ポジションとフォームについて考えてみましょう。
【ポジションよりもフォームが先】
ポジションとフォームは鶏と卵ではありません。明確にフォームの方が先に存在します。
自転車の基本となるフォームはたくさん種類があります。例えばロングライドをするとします。信号の多い住宅街を抜けて、郊外へ赴き、山を走って帰ってくる。これだけですでに、ゼロ発進からの加速、平地、山というシチュエーションがあり、“基本=フォーム”だとすれば、3つの“フォーム”を身に着ける必要があります。では加速から平地巡航への移行は?平地巡航から山岳への移行は?急こう配では?追い風と向かい風の違いは?……まずは自転車には身に付けなければいけない“基本”がたくさんあり、1つのことだけを考えていると失敗するということを抑えておきましょう。
さて、ここで問題が1つ。平地のフォームも山のフォームも全然違うのに、ポジションは1つしか選択できません。ということは、ポジションは基本のフォームをまとめた「妥協案」であり、フォームがしっかりしていないとまとめられない「解答書」なのです。
1つ具体例を挙げてみましょう。
自転車においてクランク長は長い方が有利なので、今よりも長くしたいと考えたとします。クランクの下死点が遠くなったことで膝が伸びてしまうので、サドルも同時に低くしたいところですが、そうすると上死点と体幹のクリアランスが狭まって呼吸しにくくなってしまい、回復能力が下がってしまいました。それを改善するため、サドルを上げて呼吸軌道の確保を図ります。最終的に、クランクは2.5㎜下がりましたがサドルは下がらず、膝は以前より伸びることになりました。この後もしかしたら、膝の角度が伸びて力が入らなくなったり、痛めてしまったりするかもしれません。そうなると、クランク長を伸ばしたのは失敗だった、という結果になります。逆にそうならなければ、理論上良いとされるクランクの長いポジションを手に入れることが出来るでしょう。
......この一連の流れは、膝の角度だけ考えていると出てこない答えです。1つのことだけに注視すると、自分のレベルアップの機会を失ってしまうという一例です。
【疲れた時のことを考える】
「平地は自転車のキモではない。」
僕がそう考えるようになった基準は、自転車で疲れるのは山坂と加速だからだと考えているからです。皆さんロングライドなどで峠を越えたあとってホッとしませんか?あるいはテレビでレースを観ていても、攻撃を仕掛けるのは決まって山岳でのペースアップや加減速のインターバルですよね。平地を淡々と走っていて疲れるなんてことは、実はほとんどないのです。疲れる要素の少ないシチュエーションを一生懸命考えても効果は薄く、逆に山や加減速のことを考えることが、疲れにくくなるポイントだと考えています。
【呼吸という概念】
もう1つ、疲れた時のことを考えるとなると、呼吸のことを考えていく必要があります。これが、室内のポジショニングマシンにおいて決定的に欠けている部分です。
しっかりと気道を確保し、たくさん酸素を取り入れられる姿勢を取る事は、疲労回復という点から見て大事なことです。ハンドルを低くすることばかりにとらわれない事です。もちろん高すぎないことも重要です。自分の空気抵抗のことも大いに考えましょう。最近エアロロードなるものが流行していますが、全体の空気抵抗の8割は人間本体によるものです。アップライトなポジションで乗った結果、自転車を進ませるのに必要な出力が増えてしまい、脚が売り切れてしまってロングライドおしまい、じゃ全然ダメダメです。
高すぎてもダメ、低すぎてもダメじゃあ、いったいどうすりゃいいんだよと思うかもしれません。
いいえ、大事なのはバランスです。
【ポジショニングマシンの存在意義】
そう考えていくと、ポジショニングマシンそのものに疑問を感じてしまいます。
ポジショニングマシンにまたがり、フォームとともにポジションを出す…しかしポジショニングマシンが坂を想定して傾いていたり、ダンシングとシッティングの移行を考慮したり…という光景を見たことがあるでしょうか。常に平坦を想定し、1つのポジションに対して延々と語り、複数のシチュエーションを考慮しない。私はポジショニングマシンを使ってセッティングを行うことに、強い不信感を持っています。
なぜ山が嫌いな人が多いのでしょう。それは山には山のフォームがあるにもかかわらず、平地のフォームを考えて作ったポジションで山を走っているからです。平地で走るフォームを基準に出したポジションで山を快適に走れるはずがないのは明々白々です。
ポジションを考える上では、
何をしたら疲れるのか。それを回避するにはどうすればよいか。疲れてしまった時にどんな対応策があるか。この3つを主幹において考えると失敗しにくいと思います。
人間だれしも、疲れていないときは元気なもの。
それを合言葉にして……。
- 商品名
- 【BN】第30回最速店長日記:理想のポジションなんて存在しないッ!
- 登録日時
- 2014/05/23(金) 16:12
- メーカー名
- サイクルスポーツ連載記事『最速店長日記』バックナンバー