【誰だ、こいつは】
みなさんはじめまして。3回目を迎えて、もはや恒例となった全日本最速店長選手権にて優勝し、この連載を担当させていただくことになりました、サイクルフリーダムの店長の岩佐昭一です。元全日本チャンピオンである大石一夫店長からの連載を、無名の私が引き継ぐとあって非常に恐縮なのですが、まがりなりにも今年の最速店長として、胸を張って連載していきたいと思います。第1回目は、誌面には載らない店長選手権の裏側を、個人的な目線から語ってみたいと思います。
【集合時間を間違えた】
事前に30項目近いアンケートがあったり、綿密なタイムスケジュールが組まれていたりと、かなり念入りに準備されている店長選手権ですが、レースをしていない時間に何をしていたかと言うのは、みなさんが知らないところだと思います。
レースは午後2時からでしたが、午前中は取材や撮影があるため、参加選手たちは朝早くから集合しています。ちゃんと確認しなかったタイムスケジュールには8時集合と書かれていた気がして、昨年は「9時集合でしたが今年は参加人数が30人を超えるから去年よりはやくしたんだな~、大変だな~」くらいに考えていました。
このイベントは選手、スタッフ問わず僕が最年少の1人なので、誰かに遅れて入るわけにはいかないと、7時20分には現地に入りましたが、着くと誰もいません。ちょっとはやく着きすぎたかなー。あははは。なんて思いながら近くのコンビニに戻り、コーヒーにガムシロを入れていると、サイスポの方達と会いました。さすがはやいですねーなんて言われて内心、遅くね?と思っていましたが、現地に戻ってみてもやっぱり誰もいない。後日タイムスケジュールを確認すると、「スタッフは8時集合、選手は9時集合」ときっちりと書かれていました。
【ガチンコレース】
過去にないくらいピリピリしたムードで始まった今回は、ローラー台でのアップが当たり前のように行われていました。このレースはスタート直後の主導権の握りあいから最初のスプリントまでが一連しているため、スタート直後の体の仕上がり具合がものすごく大事。昨年はローラー台でウォーミングアップをするような雰囲気ではなかったため、僕は今年はローラー台を持って行かなかったんですが、おもいっきり後悔しました。レースにおいてスタート直後が速いのは普通なんですが、いきなり50km/h近いペースで主導権に握りあいが始まります。今年初参加された店長方はビックリされたかもしれませんが、僕もビックリしました。
「店長選手権」は業界全体でも注目されているらしく、展示会に行くと必ず話題に上ります。この1年間、展示会に行けば決まって、「今年は勝てそう?」と聞かれ続け、そのたびに「勝ちます。」と返答してきました。こうした返答において、「勝ちたい。」ではダメです。「勝つ。絶対勝つ」そこまで言って、周囲に言いふらして、自分自身の過剰な発言から受ける巨大なプレッシャーを乗り越えて初めて、勝利を価値のあるものにすることが出来ます。
【雨の日の空気圧】
よくお客さん達からこの手の質問を聞かれます。濡れた路面はグリップ力が低下しますから、雨の日には空気圧を下げなければいけません。店長選手権を例にして話してみましょう。僕が使っているタイヤ、ヴェロフレックスのスプリンターは、市場の中でも最もしなやかなタイヤの1つです。選んでいる理由は、悪路や濡れた路面でのグリップ低下が少ないから。路面がドライの場合の空気圧は7.8bar、体重は64㎏です。
コース試走ではレースを想定した速度、具体的には45km/hで4周走りました。その理由は、アウトインアウト、アウトアウトアウト、インインイン、レコードラインをそれぞれ確認したからです。コースは狭く曲がりくねっていて、フルパワーでは曲がりきれないコーナーが2つあったので、結果的に7.2barまで下げました。(実際にそのコーナーのインサイドでダンシングした方がスリップアウトした。) この後、ホイールtoホイールが1㎝~2㎝レベルでのレースが1時間続きましたが、僕個人は終始グリップには安心して踏み続けることが出来ました。ローラーと実走の違いだと思います。
【ずばり勝因は】
単純に、スプリントでポイントが取れたからです。店長選手権はポイントレースですから、スプリントでポイントを取らないと勝てません。スプリントレースにおいて、単純なスプリント力が強いというのは、それだけで圧倒的に有利に展開することが出来ます。5周ごとに設置されたスプリントポイントがある事で、5周目にスプリントをする、1~2周目で休んでいる間に逃げられる、3~4周目にそれを捕まえに行く、5周目に刺す、というルーティンが生まれ、自分が使う力が上手くポイントに結びつくようなサイクルを作ることが出来ていました。周りの状況を冷静に観察して、正確に対処することはとても大切なことですから、余裕をもったレース展開にできるか否かの境目は、このレースでいえばスプリントでした。
自転車の練習においては、とかく巡航力と登坂力に目が行きがちですが、フリーダムの学生らにはスプリント力を磨けと口を酸っぱくして言っています。例えば、もし強くなって、常に最後まで集団に残れる実力がついたとしましょう。最後まで残れば入賞できるかもしれない。ローテーションが上手くいけば表彰台も狙えるかもしれない。しかし優勝はできません。優勝するには着順を獲りきる力、1位を決めきる力が必要です。僕は決してスプリンターではありません。しかしレースにおいては、単独逃げ以外の状況であれば必ずスプリント勝負になりますから、最低限のスプリント力を身に着けておく必要があります。
【嵐去って】
レースが終わり大石店長から、「これで世代交代が出来るよ。」と握手された時は泣きそうになりました。小西店長から、「さすが現役は強いね。」声をかけられてシビれました。引退してなおこの強さですから、全盛期はいったいどれだけ強かったのと想像すると震えが止まりません。僕が50歳になっても、あのような強さを持っていられるかと言えば、僕には自信がありません。それは感嘆の一言です。
チャンピオンジャージをもらい、取材を受け、選手の時間が終われば、また店長に戻ります。選手権は25日でしたから、店に帰れば当然のように月末の事務処理が待っています。お祝いのメールをもらう一方で、翌月の勘定表とにらめっこです。天にも昇る夢の時間が終わり、下界に降りて来たような感覚でした。
【店長日記の今後の展望】
基本的に自転車ライフは、機材を買う、練習する、イベントに出る、というサイクルの繰り返しです。サイクルだけに。なのでそれになぞらえて、その時々で僕が何を優先に考えているかを書いていきたいと思います。それから1年間を通して、どんな練習をしていくかを書いていきます。先月はこんな練習をしました、というのではなく、来月はこんな練習をします、ターゲットはこれです、という内容にするつもりです。
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最速店長 今月のレース結果
ツールド沖縄のエントリーフィーを払い忘れたため、今季はこれで終了。
今季15戦9勝、2位3回、3位1回。
来期はJBCF・E1クラスのリーダージャージ獲得と全日本選手権の参加資格の獲得が主な目標。
- 商品名
- 【BN】第25回最速店長日記:スプリント力を生かした最速店長選手権
- 登録日時
- 2013/12/23(月) 22:18
- メーカー名
- サイクルスポーツ連載記事『最速店長日記』バックナンバー