店長のこだわりのところに挙げている写真において、なぜワイヤーのエンドキャップを付けていないのか?という質問を受けました。エンドキャップを付けない理由は基本的にありません。めんどくさいから後で付けようと思いながら、付けないまま放置されているだけですから、ホツれる前に付けた方が良いと思います。
現時点で僕の自転車についている、このピンク色のワイヤーは、とあるメーカーの新商品で、それを試しているというか、評価付けをしている最中のものです。ワイヤーは新商品がでればすぐに試すので、どうせそのうち変わるだろ、という考えも、エンドキャップを付けない理由を後押ししていますが、ほつれる前に付けた方が良いと思います。
その質問を受けて、ちょうど店にいたお客さん達に、インナーワイヤーに求められる性能を尋ねてみると、①引きの軽さ③性能の持続性⑤デザインの3つを挙げてくれました。その3つに②引きの滑らかさと④価格を加えて、合計5項目を、順を追って説明してみます。
まず、①引きの軽さと②引きのなめらかさですが、これは一緒に思うかもしれませんが、違います。性能的にはむしろ相反しているかもしれません。
ワイヤーの構造を見ていくと、基本的に細い鉄線が、らせん状に集合して1本の太いワイヤーになっています。これの断面図は当然でこぼこになるので、手で引くとゴリゴリ…という感触になります。そしてそのゴリゴリ感を解消するため、テフロンコートやポリマーコートしたりして、手触りを滑らかにしていきます。
インナーワイヤーはアウターワイヤーの中を通りますから、プラスチックのライナーに金属が擦れている事になりますが、テフロン加工されて表面のザラザラが無くなってくると、ライナーの接地面が増えて摩擦が大きくなります。だからあまりコーティングをしすぎると、滑らかになるけど重くもなってしまうんですね。僕がシフトワイヤーを軽視している理由はそこです。人間がレバーを指先で横に捻る分には、ゴリゴリ感はあまり感じないんですね。逆にブレーキのように、手前に引いた時には感覚はとても鋭くなります。
メーカーは、引きの軽さと滑らかさのバランスをどのくらいにするのか、あるいはどちらを優先するのかを考えて開発していくことになります。カンパなんかはゴリゴリでいいから、引きの軽さを優先する…というような考えをしていますね。僕が今試しているワイヤーは、滑らかだけど逆に重すぎてヤダ…というような評価をしています。滑らかなのが嫌いな人はあまりいないでしょうが、引きが重いと疲れちゃうので、自分が一度に何km走るのか、何時間乗るのか、などを指標に決めると良いのではないでしょうか。
そしてちょうど良いバランスをもったワイヤーを持つと、③性能の持続性を求めるようになります。何らかのコーティングがされたワイヤーであればそのうち剥げてきますが、できれば禿げにくいものが良いですよね。
それでもコーティングが剥げてしまうことは完全には防げませんので、時間が経って性能が落ちてくれば交換になります。高級ワイヤーを使っている人が、600円のワイヤーで組んだお店の店頭完成車のブレーキを引いて「なんでこんなに軽いの?」と聞くときは、たいてい「新品だからです。」の一言で片付いてしまいます。昨年のサイスポ3月号でも書きましたが、どんなにいいワイヤーでも、消耗した状態ものを使うよりは、新品のダメワイヤーを使う方が良いので、ワイヤーの引きを良い状態に保ちたいのであれば、頻繁に交換するのが最善だと言えます。
頻繁に交換するのが良い部分では、頻繁に交換しても良いと思える⑤価格であることが大事です。最近のワイヤーはインフレ傾向にあり、インナーワイヤー単品で2000円~3000円するものがザラに出てきました。新しいシマノのワイヤーは、かなり高性能ですが1本で1900円もします。ブレーキだけに絞っても2本で4000円ですから、気軽に交換するにはちょっと後ろ髪引かれてしまいます。さっき言ったようにワイヤー複数本分の耐久性はありませんから、ワイヤーを決めるときは、自分の乗る頻度とその交換周期に対して“もったいないと思わずに済む金額”の中で収めるようにするのが良いと思います。 ちょっと変な日本語ですけどね。
最後の⑤デザインは、人それぞれ勝手に決めればよいですが、コーティングの禿げやすさでいえば、白や黄色は性能が長続きしない傾向にあります。つまり、着色しにくい色、接着剤の多いものほど長続きしません。テフロンは黒が安定です。
ちなみに今はワイヤーの話に限りましたが、さらにグリスやフレームの形状、サイズによっても変わってしまいます。たとえばパワーコーズ。油圧のように滑らかである反面、かなり引きが重くなるので、カンパには向きません。また小さいフレームにも難しかったりします。ルーティング同様にワイヤー選びも、フレームサイズにかなり影響されてしまいます。とり回しがきつければ、その分アウターにかかるテンションも増え、それがテフロン加工されていれば禿げやすくなります。どのフレームにどんなワイヤーが合うか、もっと言えばそのワイヤーをどんなルーティングで繋げるのか、それはお店に蓄積された知識と経験によるのでしょう。
そんなわけで、僕のバイクのインナーワイヤーにエンドキャップが付いていないのは、どうせすぐ変わるしめんどくさいから、という理由になります。見本としてあるまじき状態ですね。
一応、テフロン加工されているワイヤーは往々にしてホツれにくいという経験則と、コーティングが剥げやすいものほどホツれやすい性質があると言っておきます。ほとんどの場合、寿命がくる前に他のものに交換されてしまいますけどね。
そういえばハンダ付けすれば見た目もスッキリ、みたいなことをどこかで読んだ記憶がありますが、要はホツれなければなんでも良いので、やりたい方はご自由にどうぞ、と言っておきます。
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2013年7月8日、HPの日記より
- 商品名
- ワイヤーの話。
- 登録日時
- 2013/10/19(土) 12:44
- メーカー名
- その他