試乗車の使用コンポはスラムレッド、ホイールは手持ちのフルクラム・レーシングスピードXLRとレーシングライトXLRに、エドコ・アルブラ、ジップシリーズ、マビック・アクシウムの計7種で試乗し、12月の1周目~4週目の間で合計1300㎞ほど乗りました。試乗インプレとしてはもっとも長い距離を乗り込んだものではないかと思います。
スクルトゥーラSLはメリダのハイエンドバイクの1つで、2013年からプロツアーチームであるランプレに供給されることになりました。メリダでは、このスクルトゥーラSLが軽量フレームとして、エアロバイクにリアクト907(2013年3月時点ですでにリアクトEVOにマイナーチェンジ)というフレームがラインアップされていますが、たいていの選手がたいていのコースで、こちらのスクルトゥーラSLを選択しています。
試乗してみると、基本的にかなり良い評価を得ました。
まず平坦を走ってのことを。メリダ最大の特徴の1つとして、重心が低い事。腰高感が無くとても安定していて、路面との設置力が非常に高い。リア車輪からトルクの伝え方がうまい事。また既存の軽量フレームと違って、剛性重視の設計ではないことが挙げられます。
フレームは基本的に軽くて固い事が速い条件であり、それらの両立を目指して作られます。しかし固すぎると、路面の凹凸に対応しきれず車輪が浮き、結果トルクを逃してしまいます。サスペンションの固い車を連想してもらうとわかりやすいと思います。またこれは当然、乗り手へのダメージも大きくなります。
ピナレロ・ドグマ、S-WORKS・ターマック、ジャイアントTCRなど、乗り手へのダメージやトルクの伝達力を、完全に乗り手の技術や肉体レベルに任せてしまって、単純にスペックだけを突き詰めていったメーカーもありますが、メリダはそうではないということ。長距離、長時間を、なるべく疲れずに走りきらせることを目的に設計されています。それこそまさにステージレースのために作られているような感があります。
最近の乗り方の流行は、上ハンドルを持ってすでに体が平衡になるくらい強烈な前傾姿勢を取り、小さいセットバックでよりクランクの真上に近いところから踏み下ろすようなぺダリングをします。簡単に言えば、極度のパワー重視、出力重視の乗り方をする時代です。時代DEATH。
そしてこのスクルトゥーラSLは、フレームサイズに対してかなり短いヘッドチューブであり、付属のシートピラーにはセットバックがありません。つまり最先端の乗り方に合わせたフレーム設計と言えます。
そうした乗り方をするとハンドルへの荷重が高まるため、通常のストレートフォークでは非常にふらついたハンドリングになってしまいます。メリダはその対策として、かなりベンドフォークに近い感覚に仕上げてきました。見た目はストレートフォークなのですが、実際に受ける印象はベンドフォークです。ストレートフォークに慣れて久しい中で正直乗りにくく、慣れるまで少々時間がかかりました。
スクルトゥーラSLの特徴を整理して考えていくと、
①重心を低くし、過剰剛性を避けることでトルクの伝達力を向上させた。
②そうすることで多少の前乗りではトルクが抜けなくなったので、姿勢を下げるために短いヘッドチューブとゼロオフセットシートピラーを採用した。
③ステアリングが安定するようにフォークを寝かせた。
という開発プロセスが見えてきます。すべては、最新流行である深い前傾姿勢を取るために、矛盾をつぶしていった感じです。
山岳勾配に関しては、完全に軽さに頼り切っている感じがします。車重はとても軽く、ダンシングも扱いやすい。それほど剛性がないにもかかわらず、登坂性能は高い。開発人は、剛性が無くても軽さだけで山は登れるんだ、と言わんばかりです。また、ランプレチームはフルクラムを使用していますからフルクラムの性能に頼ったのかもしれません。試乗車がスラムで僕の手持ちの10sホイールがたまたまフルクラムのレーシングスピードXLRとレーシングライトXLRだったのですが、登坂はとにかくリズムが作りやすいものでした。
とはいえ絶対的な剛性が足りないわけではありません。横には低出力(800w程度)でもしなるように作られていますが、縦方向にはかなりの反発力を持っています。前三角とフォークが固く、バック三角のうち横方向にだけやわらかい。正直パワースプリンターやヒルクライマーには向かない気がしていて、オールラウンダーやステージレーサーのためのフレームだと思います。
このバランスは快適性やトルクの伝達力と天秤にかけた結果なのだと思っていて、これはこれでしっかりと乗り方があり、それに合わせていかなければいけない類のものです。スクルトゥーラSLは適当に乗っても速いフレームではなく、乗り手の技術がそれなりに必要になるフレーム、と言うことです。とはいえそれ自体は難しい技術ではなく、どちらかというと“乗り方に制限がある”といういい方がふさわしい気がします。
その他に思ったことを少し。
まず、これをシマノで組む時にはBB部がかなり複雑な事が挙げられます。試乗車にはスラムレッドが付いていましたが、このフレームとシマノのクランクをつなげるには、フレーム~金属アダプター~ベアリング~金属シム~樹脂アダプター~クランクと、かなりこまごましたパーツを1つひとつ圧入していかなければいけません。芯となるBBシェルはフルカーボンなので、神経を使います。
パーツ自体は全て付属していて、金属アダプターはメリダカラーの緑のアルマイトがかかっていてカッコいいのですが、苦労して圧入したベアリング自体はそれほど回転性の良いものではありません。ここはグレードアップの余地ありです。
ワイヤーはフル通しです。特にリアシフトは右レバーからリアディレイラーまで2m以上も必要なので市販のワイヤーパックでは足りず、ケーブルボックスから長く切り出す必要があります。フレームセットには白いジャグワイヤーがセットされていましたが、僕はそれが気に入らずシマノのアウターケーシングに入れ替えましたが、その入れ替え作業もかなり大変のものでした。入れ替えるにはBBのベアリング機構をすべて外さなければいけないため、ワイヤー交換はかなり大がかりなものになるでしょう。
それからボトルケージが1つ付いてきます。タイムなどと同様ですが、なぜか2つではなく1つ。せっかくなら2つ付けてほしいところ。人によっては愛用のボトルケージがあるでしょうが、なまじメリダのロゴが書かれたボトルケージがあると使いたくなってしまうのが人情と言うもの。ボトルケージは2つ付けてこそ正装ですから、付けるならちゃんと2つ付ける、付けないなら1つも付けないで、しっかりと割り切ってほしい。
シートピラーは、カタログではセライタリアのモノリンク用が付属していて、試乗車もモノリンクでしたが、通常レールのものも使えるよう別パーツがちゃんと付属されています。ただし、フィジークのブレイデッドレールやプロロゴのナックレールなど、扁平レールは使えません。ここには注意が必要でサドルに制限がかかりますが、通常レール用のパーツが付いてきているのは評価します。フレームに対してカーボンボトルケージが1つ付属し、シマノ用BBアダプターとFSA用アダプターが2種類、それからシートピラーも付いてきてモノリンク用の別パーツまで同梱されていますから、269000円のプロツアーフレームとしては至れり尽くせりです。
そこまで書けば、あとは乗り手の体だけです。上記のとおり、スクルトゥーラSLは、深い前傾姿勢を取るためのフレームですから、深い前傾姿勢に耐えられる肉体を用意しておかないと、せっかくの宝も持ち腐れてしまいます。
~走行距離1300㎞~
サイズ52、フルレッド組、
レーシングスピードXLR、レーシングライトXLR他
タイヤはヴェロフレックス・カーボン。
空気圧は7.8bar。
- 商品名
- メリダ スクルトゥーラSL
- 登録日時
- 2013/03/25(月) 14:26
- メーカー名
- フレーム